日本酒の常識を超える一杯──光栄菊 黄昏オレンジ徹底レビュー

光栄菊 黄昏オレンジとは?

─ 新感覚の“オレンジジュース系日本酒”が話題に

ここ数年、日本酒の世界では「こんな味、ありなんだ…!」という驚きを与えてくれる銘柄が次々と登場している。
中でも今、“次世代日本酒”として熱い注目を集めているのが、佐賀県の光栄菊酒造が手がける「黄昏オレンジ」だ。

正式名称は光栄菊 黄昏Orange 無濾過生原酒
文字面だけではピンとこないかもしれないが、一口飲めば誰もが納得する。「あ、これは本当にオレンジだ」と。

では、その“オレンジ”の正体とは何なのか? なぜこの酒が、全国の飲み手に衝撃を与えているのか?
以下、プロの視点でひも解いていこう。


しぼりたて生酒×柑橘感が生む「黄昏オレンジ」の魅力

まず「黄昏オレンジ」は、その名に偽りなし。
グラスに注いだ瞬間から、ふわりと香る柑橘のアロマが立ち上がる。
どこかマンダリンオレンジ、あるいはポンカンや甘夏を思わせる、明るくジューシーな香り立ち。
この段階でもう、一般的な日本酒の香りとは一線を画している。

製法としては無濾過・生原酒。
つまり、搾ったそのままの酒を火入れせずに瓶詰めした“生きた酒”である。
そこに微細な炭酸ガスがわずかに残り、シュワシュワと口中で弾ける。
これが、香り・味・舌触りのすべてにおいて、果実酒や自然派ワインにも似た「開かれた印象」を与えてくれる。

この酒のすごいところは、「日本酒」であることを捨てていないのに、“まったく新しい飲用体験”を生み出している点だ。
フルーティーで飲みやすいだけでなく、しっかりとした米の旨味と酸の設計が感じられ、単なるジュース的な甘さにとどまらない。
これが、多くの酒販店バイヤーや飲食店関係者が「光栄菊、ただ者じゃない」と口を揃える理由だ。


開けた瞬間から始まる“ピチピチ”のガス感と果実味

黄昏オレンジの飲み始め、つまり口開け直後の味わいは、まさに“オレンジ・スパークリング”と表現するのがふさわしい。
瓶の栓を抜いた瞬間、「シュッ」と微かなガス音が聞こえることもあり、グラスに注ぐと細かい気泡が立ち上る

この初日のガス感が、本当に楽しい。
舌に当たる刺激は心地よく、軽やかな酸とフレッシュな甘みが、まるで搾りたての果汁のように口中を満たしていく。

印象としては、青リンゴやグレープフルーツのような爽快さ、そこにマンダリンオレンジのジューシーな甘みが加わる。
アルコール度数は13度と軽めで、体にスッと馴染む飲み心地。
それでいて、味の薄さは感じさせず、しっかりとした米の旨味が背景で支えている。

注意点として、開栓直後はやや吹き出しやすいので、ゆっくりと慎重にガス抜きをしながら開けるのがベター
ここをうまくクリアすれば、口に広がるのは間違いなく「うわ、何これ…うまっ!」という新体験になるだろう。


変化も楽しめる!数日後はまろやかな完熟系へ変貌

さらにこの酒の真価は、“変化することを前提に設計されている”という点にある。

開栓から1日、2日と経つと、炭酸は徐々に抜け、香りは落ち着き、味わいには熟した果実のようなコクと柔らかさが出てくる。
この変化がまた面白い。ピチピチと弾けていたあのオレンジが、2〜3日後にはまるで完熟のネーブルオレンジのように、とろりと丸みを帯びるのだ。

酸がまろやかに溶け込み、香りもやや蜜っぽく変化していく。
「今日はシュワっと、明日はじんわり」──そんなふうに、一つのボトルから複数の顔を引き出せる日本酒は、そう多くはない。

この「時間で変化する設計」は、光栄菊の酒全体に共通する魅力でもあり、
黄昏オレンジはその中でもとりわけ変化がはっきりと楽しめる1本だ。

造り手に注目──光栄菊酒造の挑戦と物語

─ 廃業した蔵を、映像ディレクターが蘇らせた再生の酒

「黄昏オレンジ」というユニークな日本酒が生まれた背景には、
単なる“味の新しさ”だけではない、再生と情熱のストーリーがある。
それが、佐賀県小城市にある光栄菊酒造の存在だ。


蔵元・日下信次氏の異色の経歴と酒造りへの情熱

光栄菊酒造は、かつて100年以上続いた老舗だったが、2006年に一度廃業している。
その蔵を復活させたのが、現代表・日下信次(くさか・しんじ)氏
なんと彼の前職は、テレビや映像制作のディレクター。
酒造りとは無縁の世界から一転して、「本当においしい日本酒を造りたい」と一念発起し、ゼロから酒蔵再建に挑んだ。

復活にあたっては、古い蔵の建物や設備を可能な限り残しつつ、最新の衛生基準や冷蔵設備を導入。
資金繰りや人材確保も一筋縄ではいかなかった中、理想の酒を造るためには絶対に妥協しないという強い信念のもと、チームを形成していった。

特に注目すべきは、「スペックではなく体験で評価される酒を造る」という日下氏の哲学。
米や精米歩合、酵母などの情報をあえて非公開にする理由も、先入観なく、純粋に味で評価してほしいからだという。
これは、日本酒の常識を軽やかに超えていく彼らしい、ひとつの表現でもある。


「菊鷹」の山本克昌杜氏が醸す“個性派の酒”

日下氏と共に光栄菊ブランドを立ち上げたもう一人のキーパーソンが、杜氏の山本克昌(やまもと・かつまさ)氏だ。
愛知県の銘酒「菊鷹(きくたか)」を手がけてきた実力派であり、
酵母や発酵のコントロールに長けた、非常に繊細な感性の持ち主である。

山本氏の造りには、どこか“野生”と“精密”が共存している印象がある。
光栄菊の酒はすべて無濾過生原酒、つまり極めてナチュラルなスタイルだが、
その中にあるバランスの良さや設計の巧みさは、まさに職人技のなせる業だ。

特に黄昏オレンジのような“変化を前提とした酒”を造るには、
単に発酵を任せるのではなく、「最初から、数日後の味までを設計する」視点が求められる。
山本杜氏はその技術と感覚を持っている、稀有な造り手の一人だと言えるだろう。


“スペックより体験”を重視する、光栄菊の哲学

光栄菊の酒には、多くの日本酒ラベルに見られる「日本酒度」や「酸度」「アミノ酸度」などの表記がない。
原料米も、酵母の種類も、非公開のことが多い。
これは、情報を伏せることで謎めかせているのではなく、「五感で判断してほしい」というメッセージに他ならない。

「先にスペックを知ってから飲む」のではなく、
「まず味わい、香り、温度、舌触りと対話してみてください」。
そう語りかけるような酒。それが光栄菊のスタンスだ。

また、香味の変化や不安定さも“個性”として肯定するのが光栄菊の酒造りの特徴であり、
黄昏オレンジもまた、「香りが開く日」「甘さが際立つ瞬間」「熟成感が出るタイミング」などが明確に現れる。
これをネガティブと捉えるか、ライブ感のある魅力と捉えるか──
光栄菊は、「変化を愛せる人にこそ届いてほしい酒」を造っているのだ。

味わい徹底レビュー|まるで柑橘スパークリング

─ 香り・ガス感・余韻まで、五感で楽しむ一本

日本酒というより、ナチュラルワイン? それとも高級な柑橘果汁?
初めてこの酒を飲んだとき、多くの人がそう戸惑う。
でもそれは「?」ではなく「!」に近い驚きだ。
ここでは、光栄菊 黄昏オレンジの味わいを、3つの視点で紐解いていく。


香りは青リンゴとマンダリンの爽快アロマ

まず香りの第一印象は、はっきりと「柑橘系」。
開栓してグラスに注いだ瞬間、立ちのぼるのはマンダリンオレンジやポンカンの皮を剥いたときのような、明るく甘やかな香りだ。

その奥にうっすらと見えるのが、青リンゴや白桃のような爽やかさ。
熟した果物の密度というよりは、果実そのものが弾ける直前の瑞々しさが印象的だ。
ナチュラルワインやクラフトビールに親しんでいる人なら、この香りの輪郭にすぐピンとくるはず。

一方で、いわゆる“吟醸香”とはまた違う。
主張しすぎず、でも確かに存在感を放つ。そんな柑橘アロマと日本酒の中間点に位置する香りだ。


舌の上で弾けるガスと、やわらかな酸味のハーモニー

口に含むとまず感じるのは、繊細でクリスピーな微発泡感
強炭酸ではなく、口中でシュワリと弾けるピチピチ系のやさしいガス感だ。
これが、オレンジのジューシーな印象を一段とリアルに押し上げている。

味の中心にあるのは、やわらかい甘さと心地よい酸味のバランス。
「甘い」と言っても、砂糖や蜂蜜のような甘さではない。
果実の“自然な糖分”のような、滑らかで後を引かない甘さだ。

そこに合わせるように広がるのが、丸みを帯びた酸味。
これが全体を重たくさせず、むしろ引き締めている。
甘みと酸、そして微発泡――この三層構造の香味設計が、黄昏オレンジ最大の個性だ。


グレープフルーツのような余韻が絶妙なキレを演出

飲み終えた後に残る余韻は、驚くほどスッと引いていく
しかし、そこには淡く残る苦味と、果皮のような香ばしさがある。
例えるならば、グレープフルーツの白い果肉を食べたときの、あのビターで上品なフィニッシュに近い。

この余韻が、ただの“甘酸っぱい系日本酒”との決定的な違いだ。
甘さだけで終わらせず、酸と苦味を通してキレのある締めくくりを演出してくれる。

食中に飲むなら、前菜やサラダ、カルパッチョのような軽めの皿との相性が抜群
逆に、濃い味の料理や脂っこいものには少々繊細すぎるので、ワインの白のような位置づけで考えるといいだろう。

おすすめの楽しみ方とペアリング

─ 軽やかな食事と、果物・チーズ系のおつまみに最適

光栄菊 黄昏オレンジは、味わいの個性が際立つ一方で、扱い方によって表情を大きく変える繊細な一本でもあります。
だからこそ、少しだけ丁寧に向き合ってほしい。
ここでは、「どう開ける?」「どう冷やす?」「何と合わせる?」といったポイントを、プロの視点でご紹介します。


開栓は慎重に!吹きこぼれ注意の扱い方ガイド

黄昏オレンジは無濾過生原酒かつ微発泡。つまり、瓶内に生きた酵母が残り、発酵がごくわずかに続いている状態です。
そのため、開栓時には炭酸ガスが一気に噴き出す可能性があるため、扱いには少し注意が必要です。

開栓のコツは、以下の通り:

  • 冷蔵庫でしっかり冷やした状態(4〜6℃前後)で開ける
  • 栓を一気に抜かず、ゆっくり回しながらガスを少しずつ逃がす
  • 吹きこぼれが心配な場合は、シンクの中やタオルの上で作業を

開栓後は、グラスに注いで香りと味の変化をすぐに楽しむも良し。
あるいは半日〜1日経過後の“落ち着いた味”を待つのも乙な楽しみ方です。


合う料理は?サラダ・カプレーゼ・柑橘を使った前菜など

黄昏オレンジの味わいは、シンプルに言えば“柑橘感のある甘酸っぱい酒”。
つまり、白ワインや果実酒に合うような軽やかな料理との相性が抜群です。

たとえば:

  • フルーツを添えたグリーンサラダ
  • トマトとモッツァレラのカプレーゼ
  • 鯛やヒラメの昆布締めカルパッチョ
  • 柚子やレモンを使った和風の前菜
  • ブルーチーズやブリーなどの柔らかい白カビ系チーズ

また、デザートワインのように「締めの一杯」として、
みかんやオレンジ、白桃などの果物そのものと一緒に楽しむのも面白いアプローチです。

ここで大切なのは、“素材の味が際立つもの”と合わせること
ソースの強い料理や、脂が強い肉料理と合わせると、酒の繊細な香味が負けてしまうので注意しましょう。


初心者にも伝えたい“驚きと楽しさ”が詰まった日本酒体験

黄昏オレンジは、いわゆる“日本酒らしさ”を期待して飲むと、面食らうかもしれません。
でも、それがこの酒の魅力です。

アルコール度数は13度と控えめで、香りは華やか、味は甘酸っぱくて飲みやすい。
それでいて、日本酒としての骨格と旨味をしっかり備えている。
「こんな日本酒、初めて飲んだ」
「ワインみたいでびっくりしたけど、クセになる」
そんな声が、黄昏オレンジのまわりには自然と集まります。

これは、固定概念に縛られない造り手たちが届ける“体験型の酒”なのです。

“日本酒が苦手”という人にこそ、一度手に取ってほしい。
「日本酒ってこんなに自由で、楽しいんだ」ということを、一本でまるごと伝えてくれるはずです。

まとめ|「こんな日本酒、初めて!」の一杯をあなたに

─ 固定概念を覆す、自由で美味しい1本

日本酒の世界は、いま大きく変わりつつあります。
伝統を重んじながらも、新たな表現を恐れずに挑戦する造り手たちが、
次々と「まだ知られていない日本酒の可能性」を形にしている。

その象徴のひとつが、光栄菊 黄昏オレンジ 無濾過生原酒です。

ピチピチと弾ける微発泡、マンダリンオレンジや青リンゴを思わせるフルーティーな香り、
そして時間とともにまろやかに変化する奥行きのある味わい。
これはまさに、“飲むオレンジジュース”ではなく、“考えるオレンジ”です。

クラシックな日本酒のイメージ──
高アルコールで辛口、米の旨味重視、熱燗でじっくり……。
そんな枠を軽やかに飛び越えて、「もっと自由でいいんじゃない?」と語りかけてくるこの酒は、
まさに“今の日本酒シーン”を体現するような存在です。

それでいて、ただ奇抜なだけではない。
復活した蔵元の情熱、杜氏の緻密な造り、そして飲み手を楽しませようという真摯な姿勢
この一本の裏には、職人たちの静かな覚悟と、美意識が確かに込められています。

もし、これを読んで「気になる」と思ったなら、迷わず一度体験してみてください。
ワイン好きにも、日本酒初心者にも、愛好家にも。
誰にとっても記憶に残る、「こんな日本酒、初めて!」を届けてくれる一本です。

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