AKABU NEWBORNとは?しぼりたてに込めた魂

─ 若き杜氏が表現する“生まれたての味わい”
日本酒には、その年の「最初の一本」という特別な意味を持つ酒がある。
それが“しぼりたて”と呼ばれる季節限定の生酒だ。
その中でも毎年高い人気を誇るのが、「AKABU 純米吟醸 山田錦 NEWBORN」。
AKABUの醸造元である赤武酒造が、冬の始まりと共に届ける“生まれたて”の一滴だ。
ここでは、AKABUというブランドと蔵の背景、NEWBORNというシリーズの意味、
そして“しぼりたて”という酒が私たちに届けてくれる日本酒の一瞬のきらめきについて、丁寧にひもといていく。
AKABUとは?赤武酒造の歩みと杜氏・古舘龍之介氏の挑戦
AKABUを造る赤武酒造は、岩手県盛岡市に蔵を構える比較的新しい注目蔵だ。
もともと蔵は岩手県大槌町にあったが、2011年の東日本大震災により全壊。
すべてを失った状況から、盛岡市へ拠点を移し、20代で蔵の再建を託されたのが現杜氏・古舘龍之介氏である。
若き杜氏とその仲間たちは、ゼロから酒造りを再スタート。
「自分たちの手で、東北から日本を代表する酒をつくる」という志のもとに、最新の設備と先進的な感性、そして土地に根差した丁寧な造りで注目を集めてきた。
その代表銘柄が“AKABU”だ。
AKABUは、シンボルである赤兜のラベルが示すように、挑戦・革新・誇りを掲げるブランド。
古舘杜氏の哲学には、「技術を磨くこと」「毎年進化すること」「飲み手の心に届く酒を造ること」への真摯な姿勢がある。
いまやAKABUは、東北を代表するだけでなく、若手蔵元の希望の象徴とも言える存在へと成長している。
NEWBORNシリーズの意味と季節限定の魅力
AKABUにおける“NEWBORN”とは、その名の通り「生まれたての酒」を意味するシリーズだ。
毎年冬、仕込みが本格化する時期に、最初にしぼられる新酒を無濾過・無火入れのまま瓶詰めし、飲み手の元へ届ける。
このNEWBORNシリーズには、「純米吟醸 赤武」「山田錦」「愛山」など複数の酒米で造られるバリエーションがあり、どれもその年の“最初の出来”をそのまま味わえる希少な一本である。
とくに「山田錦 NEWBORN」は、全国でも人気の高いAKABUラインナップの中で、フルーティーで芳醇な味わいと、しぼりたてならではの躍動感が魅力。
この酒を楽しむことは、単に美味しい一本を飲むことにとどまらず、その年のAKABUの第一声を聞くというような、年初めの儀式にも似た意味を持っている。
毎年リリースを楽しみにしているファンも多く、冬の日本酒シーンを象徴する風物詩のような存在だ。
日本酒の“しぼりたて”を楽しむとはどういうことか
しぼりたての日本酒とは、搾りの工程を終えた直後の酒を、加熱処理も熟成もせずに瓶詰めしたもの。
言い換えれば、酒が“生まれたその瞬間の香味”を、そのまま飲み手に届けるスタイルである。
一般的な日本酒は、香味を安定させるために火入れや熟成期間を設けるが、しぼりたては発酵のエネルギーと酵母の息づかいをそのまま閉じ込めている。
そのため、味わいは非常にフレッシュでみずみずしく、時にピチピチと感じる軽微なガス感が残っていることもある。
AKABUのNEWBORNは、まさにこのしぼりたての魅力を最大限に活かした一本。
甘さ、酸味、香り、すべてがまだ“落ち着く前”の、生きた状態で混ざり合っており、若さゆえの躍動感と、完成された設計の狭間で魅せる一瞬の煌めきがある。
この“刹那の美味しさ”を味わうために、多くのファンが冬のリリースを心待ちにしている。
しぼりたてはまさに、いまこの瞬間にしか味わえない一期一会の酒なのである。
兵庫県産山田錦が引き出す、芳醇でみずみずしい味わい

─ 旨味・甘み・酸の三位一体、圧倒的な完成度
「AKABU 純米吟醸 山田錦 NEWBORN」は、しぼりたてのフレッシュさに加え、酒米の王様・山田錦を使っているという点でも特筆すべき一本です。
AKABUが手がけるNEWBORNシリーズの中でも、この山田錦バージョンは特に人気が高く、その年の出来を象徴する旗艦的存在とも言えます。
ここでは、この酒がもつ香り・味わい・飲み心地のディテールを、実際の印象を交えて紹介します。
香りの特徴──フルーティーで気品あるアロマの正体
グラスを近づけた瞬間、立ち上ってくるのは果実のように爽やかで明るい香り。
白桃や洋梨、青リンゴのような華やかで甘やかな香りが感じられながら、決して重くはなく、清潔感のある印象です。
香りのボリュームは適度に抑えられており、派手すぎず、それでいてきちんと心を掴む設計。
これはまさに、酒米・山田錦の気品と、AKABUらしい洗練された香味設計の両立によるものと言えるでしょう。
香りだけで飲み手の期待値を自然に引き上げる、まさに“香りで惹き込む”タイプの酒です。
味の印象──ジューシーな甘みと軽やかなガス感の絶妙なバランス
口に含んだ瞬間に広がるのは、とろりとしたジューシーな甘み。
山田錦由来のやわらかく膨らみのある旨味が、フレッシュな酸味とともに口中でなめらかに展開していきます。
しぼりたて生酒特有の“ほのかなガス感”も、この甘味にアクセントを加え、全体の印象を引き締めてくれます。
このガス感は決して炭酸のように強いものではなく、舌の上を小さく刺激するような、優しいタッチの泡。
そのおかげで、濃厚すぎず、最後まで軽やかに楽しめる味の構成になっています。
甘いけれどベタつかず、爽やかだけど薄くない。
この絶妙なバランス感覚こそが、AKABUの酒造りの技術の高さを物語っています。
柔らかな余韻とキレが共存する、飲み疲れない設計
NEWBORN 山田錦のもう一つの魅力は、その“後味の設計”にあります。
味わいの前半にしっかりとした旨味と甘みがありながら、後半には余韻を引きすぎず、キレの良さでスマートに終わる。
この軽快な後味があるからこそ、もう一杯、もう一口と自然に盃が進むのです。
一般的にフルーティーな酒は、甘さや香りが残りすぎて飲み疲れてしまうことがありますが、
AKABU NEWBORN 山田錦はそうした心配がまったくありません。
飲むたびに新鮮な印象を与え、“次の一杯”への期待を高めてくれる、完成度の高い一本です。
さらに、温度が少し上がってきたときの味の変化も美しく、最初の一杯と最後の一杯で微妙に表情が変わるのもまた楽しいポイント。
時間とともに味わいが開いていく様子を楽しみながら、じっくりと向き合いたくなるお酒です。
AKABU NEWBORNの楽しみ方ガイド
─ 最適温度・グラス・料理との相性まで
AKABU NEWBORNは、その名の通り“生まれたて”の鮮烈な一杯だ。
ただし、その魅力を本当に味わい尽くすには、少しの工夫と心構えが必要になる。
しぼりたて生酒ならではの表情豊かな酒質を活かすには、飲む温度・グラスの形・合わせる料理まで、ほんの少しだけ意識してみてほしい。
冷蔵保管・開栓時のポイントと推奨温度帯
まず大前提として、NEWBORNは“生酒”かつ“無濾過・無火入れ”である。
つまり、火入れによる安定処理がされておらず、瓶の中でも微細な変化が起こり得る“生きた酒”であるため、冷蔵管理(5℃以下)が必須だ。
開栓時にもひとつ注意が必要。
発酵由来の微細な炭酸ガスが残っていることがあるため、栓を勢いよく抜かず、ゆっくりとガスを逃すように開けるのがポイント。
特に720ml瓶では、立てたまま軽く回しながら徐々に開けていくと、吹きこぼれなどのトラブルを防げる。
飲み頃の温度は、10℃〜13℃程度の“花冷え”ゾーン。
冷蔵庫から出してすぐの5℃前後では、香りも旨味も閉じがちだ。
飲む10分前に出しておくと、AKABU特有のジューシーさと香味の立体感がしっかりと広がってくる。
何と合わせる?フルーツ、白身魚、やさしい塩味の料理がおすすめ
NEWBORNの持ち味は、フルーティーで透明感のある甘みと、軽やかな酸。
これを最大限に引き立てるには、淡くて繊細な料理との組み合わせがおすすめだ。
たとえば、カルパッチョや塩焼きにした白身魚、昆布締めの鯛やヒラメ。
出汁のきいた茶碗蒸しや、優しい塩味の焼き野菜、蒸し鶏なども好相性だ。
食材の旨味を壊さず、NEWBORNの香味がふんわりと料理の輪郭を引き立てる。
意外なところでは、熟した洋梨やモッツァレラチーズ、ブリーチーズとのペアリングも面白い。
果実感と乳脂肪のやわらかさが、酒の甘やかさとぴたりと合い、まるでデザートワインのようなリッチな楽しみ方もできる。
注意したいのは、濃すぎるタレや強い脂、スパイシーな料理は避けること。
せっかくの繊細な香味が、料理に負けてしまうからだ。
数日で変化する味わいも楽しみのひとつに
AKABU NEWBORNのもう一つの魅力は、時間経過による“変化”だ。
しぼりたて直後は、香りも味もとても若々しく、時にやんちゃとも言えるほどの元気な印象を与える。
しかし、開栓から1日、2日と経つにつれ、酸と甘味のバランスが落ち着き、香味に丸みが出てくる。
まるで、言葉を覚えていく赤子のように、酒そのものが少しずつ「馴染んでいく」ような感覚だ。
その変化を楽しむのも、AKABU NEWBORNの醍醐味である。
特に2日目、3日目には、フルーティーさがまろやかに変わり、ミネラル感や旨味の下層が顔を出してくる。
できれば1本を複数回に分けて楽しみ、“生まれたてから少し成長した味”まで見届けてほしい。
まとめ|“希望のしぼりたて”を味わうということ
─ ただの生酒ではない、復興と革新の1ページ
AKABU NEWBORNは、単なる季節限定の生酒ではありません。
それは、若き杜氏・古舘龍之介氏率いる赤武酒造が、毎年冬に届ける“新たな命の第一声”です。
山田錦という最高峰の酒米に、革新的な感性と技術を重ね、搾ったそのままの姿で瓶に詰められるNEWBORN。
その味わいには、香りの華やかさ、甘やかな旨味、軽やかな酸、ピュアな余韻、すべてが生き生きと詰まっています。
震災という大きな試練を乗り越えて、ゼロから酒造りを再開した赤武酒造。
その出発点にあった「いつか日本を代表する酒を造る」という強い意志が、
NEWBORNという酒に、静かで確かな形で結実しているのです。
また、しぼりたてという酒が持つ特性——フレッシュさ、一瞬のきらめき、時間と共に変化する香味。
これらはすべて、「いまこの瞬間にしか味わえないもの」であり、飲み手にとっても心に残る体験となります。
AKABU NEWBORN 山田錦は、
- 日本酒初心者にとっては「日本酒ってこんなに飲みやすくて華やかなんだ」と驚かされる入口に、
- 愛好家にとっては「今期のAKABUはどんな表情か」を探る楽しみに、
- そしてすべての飲み手にとって「冬の始まりを告げる、希望の味わい」として、確かな存在感を放っています。
冬の夜、グラスの中で立ち上る香りに耳を澄ませてみてください。
その一滴には、若き蔵の情熱と、米と水と時間が織りなす、美しいストーリーが詰まっています。
AKABU NEWBORN──しぼりたての命を、どうか“いま”味わってください。
コメント